いろいろ

厄払いの人形(ひとかた)

春の季節らしい桃の節句は、華やかでみやびな行事です。とくに女の子にとっての「雛祭り」は貴人たちの段飾りが象徴的な装飾になります。もっとも宮廷や武家の高貴な家庭行事が一般庶民に普及したのは江戸時代の商家や庄屋さんなど富裕層を中心に広まったといわれています。
日本では日常生活における人形の位置づけは、単に装飾の置物というだけではなく、子供の遊具として愛されてきました。そうして人形の読み方を「ヒトカタ」と変えるだけで、その言葉からは、たいへん古い意味と人形のもつ重要な役割が見えてきます。
「ヒトカタ」には三つの意味がこめられます。
ひとつは丑の刻参りに代表される藁人形のような「呪具」の役割。
また形代(かたしろ)として、鎮めや祈りを捧げる対象で、これは主に人形というよりも仏像や神像などに代表されます。
もう一つは「流しびな」のように、簡易的なヒトカタを破棄することで、禍々(まがまが)しい罪穢れを、そのヒトカタに負わせて解除させるという「祓いの対象」としての役割があります。(参考写真参照)
節句における「雛祭り」の源流を「流しびな」にたどると、そこには通過儀礼としての意味があり、出生・生存率の低かった時代における一定期間を経た子供の成長の節目がそこに託されているのではないかと感じます。
それまでの厄災を人形(ヒトカタ)に委ねて川に流す。これはまさに「擬死再生」の意味を含んでいます。つまり一旦死んだことにして、「水葬」を執り行ったうえで、あらためて更新再生を意図して、将来の子供の厄災を事前に取り除こうとする予防的なおまじないになります。
葬法には土葬や火葬もありますが、日本では結構、「水葬」ということで川に遺体を流し去るという慣習も各地でありました。確かに日本の河川は急流で最短で海に流れ出ます。地獄谷、極楽谷、蓮華谷等々の地名がそれを指し示しているという説もあります。また皇室では納棺を「お舟入」という言葉で儀式にしています。また遺体を菰や葦を編んだもので包んで投げ入れた伝承もあります。つい最近まで「忌中」の紙はすだれを裏返したものに貼られていました。おそらくすだれはその包みを象徴するものとして、「葬具」の一つになっていたとも思われます。
このように生まれ変わりの儀礼として、季節の行事を眺めてみるとそこには常に生死一体の境目があり、実に奥深い感性が秘められているということが言えます。

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出稿:日本葬祭アカデミー教務研究室 二村祐輔 ※無断転写を禁ず
当サイト提供元:葬想空間スペースアデュー(株式会社マルキメモリアル21)

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