タクシーの運転手さんがお亡くなりになりました。
死因は心臓の持病が悪化したことによる「心不全」ですが、入院をしてから10日にも満たない突然の死に、遺族は戸惑い、その悲しみの中で、通夜の準備が進められました。
そこへ警察の検死官が突然来ました。
タクシー会社では故人が入院する数日前に小さな追突事故に遭って、その届出を警察にしているので、その事故と死因との因果関係を一応、確認するために来たと伝えられました。
検視官と遺族のやり取りがいろいろ時間をかけて行われました。その結果どうやら再度、検死のために、剖検(解剖)しなければならない気配です。
遺族や親族にしてみれば、今まさに通夜が始まらんとしていることや、安らかな死に顔で納棺されている故人を、再び棺から出し、その体にメスを入れることは心情的にもたいへんな苦痛と思われました。
事実、喪主・遺族はそれぞれ口々に「何があっても、父をこれ以上苦しめたくはない。」と云う決意を口にしていました。
また周りの世話役たちもいまさら、ということで遺族の方々に成り代わって、警察にその対応をあらためるようお願いをしているありさまです。
中には署長に電話するという町内会長老もいて、その場はいささかざわめきました。
何とかして検死解剖が避けられないかということで、周りの人たちもその処置に反対をしました。
なかには「情がない!」など検死官にくってかかる人もいました。
まあ、町内の皆さんは遺族の心情を慮ってそれを押しとどめようとしたわけです。
検死官は死亡診断書を書いた病院の医師と電話で、専門的なやり取りをし続けています。
通夜の時間が迫ってきているので、おおよそ、このまま解剖なしで済まされていくような状況になりました。
その時、検死官がひとことポツリと遺族に言いました。
「死因が事故と病死では、保険金額に差が出ることもあります。」
一瞬、反対を叫んでいた人たちが静かになったかと思うと、喪主が血相を変えて・・
「ぜ、是非、解剖してくださいっ!」と叫んだ。
周りの人たちは、あっけに取られて茫然自失。その日の通夜は当然取やめとなった。
これが、現実の姿かもしれませんね。死因の解明は是非とも正確にしてもらいたいものです。
最近では高齢者単身世帯でのいわゆる「孤独死」が増加しました。
これによって医師の立ち合いがないまま亡くなられる方も多くなってきています。
周りの気に懸けておられる方々にも、検死やその後の司法解剖、行政解剖、病理解剖などの意味やその法的な強制なども少し事前に勉強しておくといいかもしれません。
日本葬祭アカデミー教務研究室 / 二村 祐輔 ※無断転載禁止